なぜ「治具」が工賃アップの鍵になるのか
障害福祉サービス事業所(就労継続支援B型など)では、「工賃をどう上げるか」が共通の悩みです。 厚生労働省の令和5年度の実績によると、B型の全国平均工賃は 月額23,053円。決して高い水準とは言えません。
しかも工賃アップは、利用者のためだけの話ではありません。 B型の基本報酬は、前年度の平均工賃に応じて8段階に区分されており、工賃の高い事業所ほど高い報酬単価を受け取れる仕組みです。 つまり 工賃を上げることは、そのまま事業所の経営改善につながります。
工賃を上げるには、生産量を増やす必要があります。そのボトルネックになりがちなのが「特定の人しかできない、難しい工程」です。ここを治具で解消します。
治具があると、現場はどう変わるか
難しい工程に治具を入れると、現場では次のような変化が起きます。
| 治具なし | 治具あり |
|---|---|
| 一部の熟練者しかできない | 初めての人でもできる |
| 人によって仕上がりがばらつく | 品質が一定にそろう |
| 確認や手直しに時間がかかる | 迷いが減り、スピードが上がる |
| その人が休むと工程が止まる | 誰でも代われるので止まらない |
ポイントは、「できる人を増やす」という点です。作業に参加できる利用者が増えれば、それだけ生産量が積み上がり、工賃の原資になる生産活動収入が増えていきます。
【実例】袋を折って成形する工程に、治具を作った
実際に治具を作った事例を紹介します。袋を折って成形するという作業工程です。 (写真は掲載許可の都合で割愛します)
治具を入れる前にあった、3つの壁
言葉にすると「袋を折るだけ」の単純な作業に見えます。ところが現場では、次の3つが立ちはだかっていました。
- 思った以上に、正確さが要る — 成形の精度が甘いと、製品として成立しない
- 正確にやろうとすると、1件あたりの時間がかかる — 慎重に合わせるほど手が止まる
- 不良が多く出てしまう — 作り直しが、さらに時間を奪う
つまり 「速くやると不良が出る、正確にやると遅い」 というジレンマです。 しかも難易度が高いぶん、担当できる方が限られてしまう。まさに前章で書いた「ボトルネックになる工程」そのものでした。
治具を入れたら、どうなったか
そこで、この工程専用の治具を作りました。結果は次のとおりです。
| 項目 | 治具を入れた結果 |
|---|---|
| 成形のしやすさ | 迷わず、スムーズにできるようになった |
| 1件あたりの時間 | 3分の1に短縮 |
| できる人 | 難しそうだった方も、できるようになった |
| 不良 | 大幅に減少 |
いちばん大きかったのは 「1件あたりの時間が3分の1になった」 ことです。 位置合わせを治具に任せられるので、迷う時間も、慎重になるための時間も要らなくなりました。 正確さとスピードを、同時に手に入れたわけです。
そして、工賃アップにつながった
作業効率が上がり、こなせる件数が増えました。それはそのまま生産活動収入の増加となり、 障害福祉サービスの利用者の工賃アップにつながりました。
冒頭で「治具は工賃に効く」と書いたのは、この実感があるからです。 難しい工程を、誰でもできる工程に変える。たったそれだけで、現場の景色は変わります。
なぜ「3Dプリンタ」で内製するのか
治具は市販品もありますが、現場の作業は一つひとつ違うため、既製品がぴったり合うことはめったにありません。3Dプリンタで内製すると、次の利点があります。
1. 現場に合わせて“ちょうどいい形”が作れる
その工程・その部品専用の形を、必要な寸法で作れます。「あと2mm深く」「この角度で止めたい」といった微調整も思いのままです。
2. 安く、早く、何度でも試せる
試作を重ねてもコストが低く抑えられます。「作って、現場で試して、直す」を短いサイクルで回せるのが最大の強みです。
3. 壊れても、すぐ同じものを出せる
データが残るので、破損・追加・複数拠点への展開も、同じものを必要なだけ出力できます。
治具づくりの進め方(作業マニュアルとセットで)
治具は「作って終わり」ではありません。作業マニュアルとセットにすることで、誰でも同じように使えるようになります。進め方の目安は次のとおりです。
| ステップ | やること |
|---|---|
| 1. 工程を分解する | 作業を細かく分け、どこで人が詰まるかを洗い出す |
| 2. ボトルネックを特定 | 「一部の人しかできない」「時間がかかる」工程を選ぶ |
| 3. 治具を設計・試作 | 3Dプリンタで出力し、現場で試して調整する |
| 4. マニュアル化 | 写真つきの手順にして、誰でも使える状態にする |
まとめ
治具は、特別な設備投資よりずっと小さなコストで、「できる人を増やし、生産量を底上げする」現実的な一手です。 3Dプリンタを使えば、現場に合わせた治具を安く早く作れます。 それが生産活動収入を押し上げ、利用者の工賃と、事業所の報酬の両方に効いてきます。
SUMMARY
治具は「一部の人しかできない工程」を「誰でもできる工程」に変え、生産量とスピードを上げる。袋を折って成形する工程に治具を入れた実例では、1件あたりの時間が3分の1になり、不良も大幅に減り、利用者の工賃アップにつながった。B型では平均工賃(月額23,053円)に応じて基本報酬が8段階で変わるため、工賃向上は経営にも直結する。3Dプリンタなら現場に合わせて安く早く内製できる。まず効果の大きい1工程から始めるのがよい。